
一般社団法人 日本歯牙保存学会
歯を抜かずに残す力 ― 歯科は一科である ―
「歯を残す」――この言葉は、歯科医療における究極の理想です。
多くの人がその使命を思い浮かべるとき、まず「歯内療法(根管治療)」や「歯周病治療」を思い出すでしょう。
確かにこれらは歯を守るうえで最も中心的な分野です。
しかし、歯を本当に残すためには、それだけでは足りません。
◆外科の力が必要です
たとえば重度の虫歯、いわゆるC4の歯を救おうとするなら、まず歯根を歯肉縁上に露出させなければ根管治療を始めることすらできません。
これは高度な口腔外科の知識と技術があって初めて可能になります。
◆矯正の力が必要です
外科的に露出させるだけでなく、**矯正的に歯根を引き上げる(エクストルージョン)**ことが必要なケースもあります。
そのためには矯正学の理解と臨床技術が不可欠です。
さらに、下顎第二大臼歯が智歯化しているような症例では、その歯をアップライト(立て直し)することで抜歯を回避できることもあります。
これも矯正の力なくしては実現しません。
◆小児の歯を守るには
小児に多く見られる「含歯性嚢胞」は、永久歯の萌出を妨げます。
このような病変を治療し、歯の萌出を導くには、口腔外科と矯正の融合的な知識と技術が必要です。
どちらか一方では歯を救うことができません。
◆そして、歯を支える力を守るために
治療によって一度歯を救っても、それを長く維持するためには歯周補綴の知識が欠かせません。
咬合を整え、力の分散を考え、補綴的に支える力があってこそ、歯は機能を取り戻し、長期的な安定を得られます。
◆結論 ― 歯を残すには、歯科は一科でなければならない
このように、歯を抜かずに残すためには、
歯内療法・歯周病治療・口腔外科・矯正・補綴――
すべての分野の知識と技術を統合できる歯科医師の存在が不可欠です。
歯牙保存とは、単なる「部分的な治療」ではなく、全科の融合によって初めて成し得る総合的臨床の結晶です。
私たち日本歯牙保存学会は、この「歯を抜かずに残す力」を科学的・教育的に体系化し、
“歯科は一科である”という理念を次世代に継承していきます。